大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成6年(オ)2325号 判決

上告人

朴永洙

右訴訟代理人弁護士

吉成重善

被上告人

北海商銀信用組合

右代表者代表理事

朴弘律

右訴訟代理人弁護士

橋本昭夫

小嶋保則

大川哲也

花形満

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉成重善の上告理由について

他人の債務のために自己の所有物件につき根抵当権等を設定したいわゆる物上保証人が、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することは、担保権の付従性に抵触し、民法三九六条の趣旨にも反し、許されないものと解するのが相当である。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中島敏次郎 裁判官大西勝也 裁判官根岸重治 裁判官河合伸一)

上告代理人吉成重善の上告理由

原判決には民法一四五条の規定の解決適用を誤った違法があり、最高裁判所の判例と相反する判断をしたものである。

一、原判決は、本件債権は、昭和六三年六月七日、平成三年四月一八日及び平成四年一月二三日、それぞれ主債務者である中西春一が債務承認したことにより順次時効が中断し、本件債権は有効に存在すると認定し、上告人は債権者代位権に基づき物上保証人中西一知の有する本件債権についての時効援用権を代位行使するものであり、本件根抵当権は本件債権と別個に時効消滅することはないから、本件債権について時効中断が認められる以上、上告人の請求を認容する余地はないと判断した。

二、原判決は、「債務者の時効の利益の放棄は、当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼさない。」とする最高裁判所の判例と相反する判断をしたものである。

右判例は、「原審において右訴外会社の承継人たるモダン建築工芸株式会社が昭和三六年六月一五日被上告人に対して本件貸金債務を承認し、もって時効の利益を放棄したと抗争しているが、時効の利益の放棄の効果は相対的であり、被担保債権の消滅時効完成の主張を妨げる理由にはならない。したがって被上告人らは前記消滅時効の完成とともに本件土地建物に対する譲渡担保権を失い、本件土地建物の所有権は当然に上告人古川に復帰したものというべきである。」と判断し、原判決には民法第一四五条の規定の解釈適用を誤った違法があるとして原判決を破棄した(昭和三九年(オ)第五二三号、第五二四号、破棄自判、同四二年一〇月二七日第二小法廷判決、最高裁判所民事判例集二一巻八量二一一〇頁)。

三、債務承認の効果が相対的であることは、時効の利益の放棄と時効中断とで異る理由はないから、原判決は、最高裁判所の右判例と相反する判断をしたことが明らかである。

よって、原判決は破棄されるべきである。

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